■シリーズ「ワールド・スピリット」 世界の文化を訪ねて

この時代の戦争の主役はまぎれもなく「戦車」です。
ということは戦車を視点にして戦争を見れば、また違った戦況が見えてくるのではないでしょうか。

第27回 ドイツ特集
付録編 「戦車で見た世界大戦」
〜ドイツ第3帝国 戦車開発に賭けた恐るべき執念〜

 記者:黒岩宏光


■ヒトラー第3帝国の野望

第一次世界大戦後、インフレと世界恐慌の影響を受けた深刻な経済不況中で、ドイツ国民の圧倒的な支持を得たヒトラー率いるナチスが政権を獲得し、オーストリア、チェコなどの国々を併合し、1939年9月ポーランドに侵攻、このことが第2次世界大戦の始まりとなった歴史的事実は誰しもが知るところである。

その後フランス、イギリスが参戦し、ソ連、アメリカ、そして日本でも1941年に太平洋戦争が始まり、かつてない規模の世界戦争となったのである。

さて、大筋の事実は教科書でも教えるところであるが、その詳しい戦況までは伝えない。各国の装甲部隊がどのような作戦のもと、どのような兵器を使用してどのように戦ったのか。

第2次世界大戦における装甲師団(歩兵部隊、砲兵部隊、偵察部隊、工作部隊など)において、戦車はまさに戦いの主役として活躍した。歩兵部隊を従え、敵陣に突撃し、要塞を粉砕し、兵士達の盾となる守護神として、この時代の戦いにはなくてはならない中軸兵器だったわけである。

第2次世界大戦から本格的に登場した兵器、「戦車」の開発の歴史を通じたドイツ軍の戦いを、簡単ではあるが辿ってみたい。


年代
内容
活躍した独戦車
1939年独ポーランド侵攻T号戦車、U号戦車、チェコ製(35t,38t)戦車
1940年英仏参戦
イタリア参戦
独北アフリカ戦線
フランス降伏
U号戦車、V号戦車、チェコ製(35t,38t)戦車
1941年独ソ不可侵条約を破りロシア侵攻
(日本真珠湾攻撃/太平洋戦争勃発)
U号戦車、V号戦車、W号戦車
1942年独モスクワ侵攻、スターリングラード戦
(日本ミッドウェー海戦)
U号戦車、V号戦車、W号戦車
1943年独スターリングラードで大敗
イタリア敗戦
V号戦車、W号戦車、X号戦車(パンサー)
1944年ノルマンディー上陸作戦
パリ解放
ベルリン陥落
W号戦車、X号戦車(パンサー)
Y号戦車(タイガー、キングタイガー)
1945年独(5月)日(8月)無条件降伏、世界大戦終結 


■1939年ポーランド侵攻〜ヨーロッパ攻略

1939年9月、ドイツ装甲師団はポーランドに侵攻し、この電撃戦といわれる戦いでわずか1月足らずでワルシャワは陥落し、その後、英仏が参戦、1940年フランス戦線、イタリアが参戦しての北アフリカ戦へと戦渦は拡大する。

●T、U、V、W号戦車

このポーランド戦の主力戦車は、T号戦車、U号戦車、V号戦車といわれる戦車で、T号、U号戦車は機銃のみを備えた程度の軽戦車であり、主力は37mm砲を搭載した配備数の少ないV号中戦車であった。フランス、北アフリカ、ロシア戦線と中軸の戦いで活躍したが、破壊力、装甲厚などその非力さは否めず、ライバルソ連T-34型に対抗すべく、75mm砲を搭載し装甲圧を80mmにしたW号戦車を戦線に投入する。
このW号戦車は破壊力こそ劣るものの、改良が加えられながら、終戦まで長い期間活躍することとなる。

U号戦車
V号戦車
W号戦車


■ソビエト侵攻「バルバロッサ作戦」開始

1941年6月、ソビエト攻略作戦「バルバロッサ作戦」が開始される。ドイツは50mm砲に改良されたV号戦車を中心に、突撃砲(砲頭が回転しない、生産工程を簡略化した戦車)を合わせ、全戦車数約3600台をこの戦いに投入したといわれている。

●強敵、ソ連T-34型戦車

しかしながら、ソビエト軍の新鋭戦車、T-34という76mm砲を備え、広いキャタピラ、敵の砲弾をはじく傾斜が付けられた装甲(右写真参照:一見何の変哲もないが、この傾斜により被弾時の貫通の軽減、衝撃緩和に役立っている。パンサー以降の戦車に影響を与える)、新しいアーキテクチャのもと開発された新型戦車は、このドイツVSソ連の東方戦線及びこの大戦で大活躍した最高殊勲戦車といって過言ではない。

この戦車の登場によりドイツ軍は、わずか4年あまりの間に、この戦車を上回る性能を持った新型戦車の開発に莫大な労力を消費することになる。

1943年のスターリングラードの大戦でドイツ軍が大敗したことが、この大戦の明暗を分けたと言われるが、この勝敗を分けた大きな要因の一つは、この両国の戦車の性能の違いとも言われている。

T-34戦車を破壊するには、背後に回り込み、砲弾を浴びせるしか方法はなく、世界一優秀と思われていた自国のドイツ軍戦車が、ソ連の戦車ごときに歯が立たないという事実が、多くの兵士達の志気にかなり影響したようである。

ソ連T-34型戦車とドイツ戦車性能比較
ソ連T34/76ドイツV号(M型)ドイツW号(G型)
全長/総重量6.58m/28t6.4m/22.7t6.6m/23.5t
エンジン性能ディーゼル/500馬力ガソリン/250馬力ガソリン/300馬力
砲身76mm砲41.2口径50mm砲75mm砲(43口径)
前面装甲厚約65mm(1942)約50mm約50mm(1942初期)
キャタピラ幅480mm360mm400mm

1942年にもドイツ装甲部隊があと一歩のところでモスクワ陥落というところまで攻め入ったのであるが、零下30度以下の極寒の地では、ドイツ軍の戦車は思うように進まず、水冷ガソリンエンジンは凍結し立ち往生してしまったようで、対するソ連T34型戦車はもともと寒冷地仕様でありディーゼル500馬力のエンジンは凍結することなく動き、幅の広いキャタピラは雪上での機動力にて勝っていたようである。ヒトラーが「3ヶ月で落とせる」と見ていた、モスクワの前に立ちはだかった大きな壁は、ロシアの冬将軍とこのT-34戦車であったと言われている。

余談ではあるが、ドイツ軍戦車はすべての型、すべてのタイプにおいてディーゼルエンジンを使用せず、ガソリンエンジンを使用している。同リッター比では軽油のが燃料消費率も高く単価も安いはずであるし、構造が単純なため耐久性が高く、戦車などの使用には最適なはずである。それになんといってもガソリンの方が爆発しやすく危険度も高い。戦場という状況を考えても不可解な話である。しかも、ドイツはルドルフ・ディーゼル氏によってディーゼルエンジンを生んだ国であるにもかかわらずである。この選択においても、走行距離などの点で戦況に相当不利な状況を生んだのではないかと思われている。後に紹介するキングタイガー重戦車などの燃費、航続距離の問題を含め、ディーゼルエンジンを選択していれば、対戦の歴史も変わっていたのではないかとも考えられる。なぜ、不利なガソリンエンジンを採用したかについてはどの専門書で調べてもその答えは載っておらず(唯一学研「ドイツ装甲師団全史U」にその記事が書かれているが、やはりその答えは分からないと結ばれている)戦車ファンの間でも謎とされている。


●X号戦車パンサー

ドイツはこのソ連戦車に対抗すべく開発を急いだのが、X号戦車、通称パンサー(パンター、パンテル)という、機動力、破壊力、守備力に優れ、デザイン的にもとても美しく均整のとれたスタイルの戦車である。これはもう兵器というより工芸品の域で、戦車ファンの人気度No1といったところである。

今までのドイツ戦車の印象は猛々しく、男性的なイメージがあるが、このパンサー戦車はとても上品で女性的な趣がある。

全面と側面が傾斜したデザインは、ライバルT-34型のスタイルをそのまんまパクっている。


■北アフリカ戦線〜ノルマンディー上陸戦

ドイツ軍の戦いは、東はロシア西は北アフリカまで及んだ。「砂漠の狐」といわれたロンメル将軍は、88mm対空砲を水平射撃し対戦車砲にする方法で、手強いイギリス戦車(マチルダ)を撃破し、大きな戦果をあげた。その後、このアイデアを生かした88mm砲を搭載の高性能戦車が戦線に投入される。

●Y号戦車タイガー

さらにヒトラーは、ポルシェ博士(フォルクスワーゲンやポルシェの生みの親)に史上最強の戦車の開発を依頼し完成させたのが、Y号戦車(通称タイガー、ティーゲル)である。

主砲にはドイツ軍ご自慢の88mm砲を装備し、正面装甲にはなんと100mmの厚さを誇る重戦車である。ロンメル将軍率いる北アフリカ部隊は、連合軍の米製M3戦車などの新型戦車の攻勢により苦戦を強いられていたが、この戦線にタイガー重戦車部隊が送り込まれることになり、アメリカ軍の戦車部隊をことごとく撃破する反撃を見せるが、この戦線では時すでに遅かったようである。後に、タイガー重戦車の開発があと半年早かったら、 「エジプトを占領できた」 と言われたほどなのである。

わずかの1,2年の期間で、戦車開発にこれほどまでの改良、発展を見せるとは、凄まじき執念、ドイツ第3帝国の野望、恐るべしである。いや、むしろ独裁者の考えとしては、軍事国家の意地とプライドにかけて、敵国を武力制圧するためのその強さを象徴するような、史上最強の戦車を作らなければならないという傲慢なる考えがあったのだろう。


●キングタイガー

ドイツはX号、Y号戦車といった高性能戦車にも飽きたらず、敗戦色が濃厚になってきた終盤においても、まだ新型戦車の開発に執念を燃やし、ついには史上最強といわれるキングタイガー(ケーニヒス・ティーゲル、タイガーU)を完成させ戦場に投入してくるのである。

その背景には、先程述べた軍事国家としてのプライドと、その後改良が加えられ一段と破壊力を増したライバル戦車、ソ連T-34/85(従来の76mm砲から85mm砲を搭載し、装甲厚もアップした)への競争意識がよほど強かったと思われる。

キングタイガー性能
全長/総重量10.28m/69t
エンジン性能700馬力
砲身88mm(43口径)
前面装甲厚150mm
燃費0.17km/リットル


88mm砲を装備し、総重量なんと70tという動く要塞のようなこのキングタイガー戦車だが、攻撃破壊力、防御力を高めた分、機動力が犠牲になってしまったようで、終盤の1944年の戦いにおいても、米製M4シャーマン戦車をことごとく破壊するといった大活躍をしたが、いかにしても総重量70tの巨体を維持するには燃料の消費なども莫大で(燃費リッター0.17Km!?はすごい・・・)、燃料切れで戦場で立ち往生してしまったり、ぬかるみで車体が沈み戦闘不能になったり、また故障の続発など、期待した活躍にはならなかったようである。


■大戦終焉

1944年、映画「プライベート・ライアン」が描くように(プライベートライアンでは、パンサー戦車のレプリカが登場している。キャタピラの地響きをたて進軍するドイツ戦車部隊の恐怖感が見事に描かれている)、連合軍によるノルマンディー上陸作戦が開始され、8月パリ解放、翌年5月ベルリン陥落、ヒトラーの自決にて、ドイツ第3帝国の狂気ともいえる野望は幕を閉じた。しかしながら、日本はこのドイツと日独伊三国同盟を結んだ同盟国だったという事実は忘れてはならない。
同年1945年、長崎、広島への原爆投下、8月15日、日本の無条件降伏により、5000万人以上の犠牲者を出した第2次世界大戦は終わったのである。

核兵器、高性能ミサイル、ハイテクノロジー最新鋭兵器を利用した戦争は、当時の方法とはまったく違った戦争になるであろうといわれている。もう戦車を使用した犠牲者の多い地上戦などは行われないかも知れない。また、同じような過ちを冒すほど人類はおろかではないと誰もが信じている。TVゲームなどに勤しむ今時の子供達は、プラモデルなどという手間のかかる遊びは欲しないようである。ましてや戦車を目にする機会もあまりないであろう。未来の子供達は、この奇妙な形をした乗り物を見て何を思うだろうか。






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