■シリーズ「ワールド・スピリット」 番外編

今年1/26火災事故により作家景山民夫氏(享年50才)が亡くなられました。この景山さんを追悼しワールド・スピリット番外編をお送りします。
氏は学生時代からツアーコンダクターのアルバイトをされる程の旅行好きで、お亡くなりになるまでに約80カ国以上を旅されました。そのエピソードなどはご著書や雑誌のコラムなどで紹介されておりご存じの方もいると思います。
この景山さんの冒険魂と世界見聞の蓄積は氏の作家活動に多大な影響を残されその作品のなかに生きています。
このコーナーもそんな景山氏の冒険魂に触発され、何か精神文化に的を絞りながらも多くの人に読まれるような紙面にしたい。そんな影響を受けて開始されました。


私なりのこの景山民夫さんへの追悼の意と感謝を込めて番外編を送ります。

番外編 ありがとう景山さん「景山さんの愛した南の島」   記者:H.K


■日本人で最もアジアリゾートに精通した人
 このシリーズ「ワールド・スピリット」では、第1回目のバリ島、今回のタイ、次回はマレーシア、その次はシンガポールとしばらくアジア諸国ならびにそのリゾート地などをレポートしようと予定している。
 私が思うに今年1/26に火災事故にて他界した作家の故・景山民夫という人は、このアジアのリゾートを最も堪能し、精通され、愛した日本人ではないかと思っている。

 景山氏は学生時代からその英語力が買われ、早くも海外旅行添乗員としてアルバイトをされており、お亡くなりになるまで80カ国以上を旅されたといわれている。独特のユニークな観察眼で(ご自身曰く、目と目の間が離れているので普通の人より広視角で物が見える)世界の文化を捉えたご経験は、そのいくつかは作品として残され、また作品の中で生かされている。「虎口からの脱出」(直木賞ノミネート)は中国を舞台に、「遠い海から来たcoo」(直木賞受賞)は南の島フィジー島を、「パンドラの選択」はロシアのシベリアを舞台に繰り広げられ、その他あげればきりがない。
特に景山さんは”南方指向”というようにアジアの南の島を愛された。バリ、プーケット、ペナン、ランカウイ、パマリカン、パラワン、パンコール、私の調べでもおよそ聞いたことのないリゾートアイランドまで及び、その”南方指向”の度合いは並ではない。


■知る人ぞ知るアマンリゾート
 中でも景山さんはアジアを拠点とするリゾートホテルグループ「アマンリゾート」の大ファンであった。アマンリゾートの中でも最も有名なバリ島ウブドゥにあるホテル「アマンダリ」は、このワールド・スピリットの第1回目バリ島のレポートの中で、プールが有名云々と少しだけ紹介したが、景山さんはこの超高級ホテル「アマンダリ」になんと過去3回も宿泊されている。(1回目は早くも開業半年の時に訪れている)4回目を予定し予約をいれたが、同じアマングループの経営するバリ島東部チャンディ・ダサにある「アマンキラ」に予定を変更し「アマンダリ」をキャンセルしたところ、景山さんを知っているホテルスタッフが全員、お迎えできなくて残念の声を上げたといわれているほど顔だったそうである。
有名な谷底へ流れ落ちるかのように設計されたプールのことをご自分なりに”渓谷の淵んとこ式水平線プール”と命名されているほどのお気に入りである。(このアマンダリ、アマンダリのプールをご存じのない方は、旅行会社のバリ島のパンフレット、書店にて旅行ガイドブックなどをご覧下さい。)

 ヴィラ形式の棟がわずか29棟、あとはメインプールとレストラン、バーしかない。海が自慢のこの島にあって、あえて山村に建てられたこじんまりとしたホテルではあるが、そのセンスの良さとサービスの徹底ぶりは尋常ではない。この規模にしてスタッフの数は200名。そのスタッフはすべて宿泊者の顔と名前を覚え、レストランではサインなど要らないそうである。
この真のサービスを追求する姿勢に感性鋭い景山氏のアンテナが反応し、いち早くその神髄を堪能されているところはさすがである。
 また、このアマングループがフィリピン、スールー海に新しくオープンした「アマンプロ」に開業早々に訪れるほど(ちなみに日本人として3番目だったそうである)、このアマングループのホテルにぞっこんであったかを伺わせる。

 ご旅行好きな景山さんの旅の手記は雑誌に掲載されたり、ご著書も何冊か発刊されていたり、たいへんにおもしろいお話をいくつも残されている。先のアマンプロにご宿泊されたときに、海の中で大きい方をもよおしてしまって、それが同じホテルに宿泊されお一人で海水浴を楽しんでいた世界的デザイナーKENZOさんのもとに流れていってしまった話や、煙草好きの景山さんがヨーロッパのホテルで喫煙し警報装置を鳴らし消防車まで呼んでしまった話など、たいへんにおもしろい連載だった。ちなみにこの連載の中で、飛行機に関する話があって、飛行機事故で死んでしまうのは転生輪廻を信じているからなんともないが、痛いのと焼け死ぬのだけは嫌だ(!)とおっしゃっていた。このような訃報の中で少しお気の毒な感じがしてしまったりもするが、何か予知能力の鋭い方だったのかも知れない。


■あこがれのアマンダリ
 さて、アマンリゾートの話に戻るが、私がバリ島へ行ったのは昨年の夏のことで、つい最近のことである。アジア各地を渡航し、主要アジアの国々ではインドネシアのみ渡航したことがなかったことと、この景山さんの愛したアマンダリを一目見たかったのである。
 もちろん私は、分相応という言葉があるように、このような超高級ホテルに宿泊できるような身分でもないし、米国の「ニューヨークタイムス」が表するように「最高のサービスを提供するホテルだが、その値段も最高である。」といわれるぐらいの宿泊費は持ち合わせてはいないので、せめて見学だけでもしたいと思い現地のツアーの係員の人にお願いし旅行の最終日に連れていってもらったのだった。時間の都合でエントランスしか拝見できなかったが、アユン川を見下ろす渓谷に建てられた絶好の地に、民族建築様式とシンプルで上品な近代感覚が融合した斬新なホテルで、とても美しく魅力的だった。

 景山さんの旅行記は以後ご宿泊されるホテルの評価は、すべてこのアマンダリが基準になっている。ホテルの規模は、従業員のレベルは、レストランの料理の味は。すべてに満点を付けるこのホテルとの比較で現されているのだ。
 95年バリ島ジンバランにフォーシーズンズ・リゾートの建設するホテルが開業しアマングループの牙城を崩すかと言われたときも一大事とばかりにいち早く現地に飛んで宿泊され、そのホテル同士の徹底比較を行いそのレポートを雑誌に掲載している。(ちなみにアマンダリとこのフォーシーズンズ・リゾートの勝負は”引き分け”でした)
 人気TV番組「料理の鉄人」での審査員としてもご活躍だった景山氏はもちろん自他共に認める美食家であるが、それ以上にホテル通でもあったのだが以外と知られていないようでもある。

■転生輪廻観を確信していた景山氏
 景山氏はご生前「転生輪廻」を確信されていたそうである。という話になると、前回号のアイルランド編と同じような話になってしまいそうだが、このことは今とこれからの私たちの未来にとって、必要不可欠な考え方なのかも知れない。いつの日にか自分が、この地の民族であったかも知れない。彼らと同じ文化を経験してたのかも知れない。この考えは必然的に相手の立場を尊重し理解するための重要なパラダイムシフトの鍵であると確信している。
 彼の愛したアマンダリでは、その従業員の方たちにも彼はたいへんに愛されていたそうである。なぜなら、彼の方からいつも感謝の姿勢で従業員の方たちに接し、合掌、礼にて応えていたそうである。ゲストでありながら、訪れる国々の文化を尊重し、敬意を持ち感謝の心で接していたのである。

「詰まるところ、旅行というのはイルカと泳ぐドルフィンスイムと同じようなものではないかと思う。あれはイルカの日常生活環境に人間が入れてもらって、遊んでいただくというものだろう。旅も同様で、あくまでも相手の環境にこちらが入れさせていただく立場なのだということを念頭に置いて出かけるべきではなかろうか。」

 この景山さんの雑誌「鳩よ!」などに連載されていた旅行記(「東へ3度、西へ2度」)が、私は氏の最高傑作だと思っている。もちろんもっとすばらしい数多くの傑作小説を残されている。しかし、一見してお笑い珍道中のような内容にもとれるこの作品であるが、そこは氏の人間味あふれるキャラクターが全面に出て、開放感あふれる感性で楽しんで書かれているからであって、最も彼らしい内容だと思っている。楽しみに続編を期待していたのだが、今世では残念ながら読むことができないことはとても寂しく残念でならない。どうか私たちの命が彼の信じてたように転生するものであれば、またいつの世にて氏の作品を拝見したい。


さようなら。そしてありがとう景山民夫さん。




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